王妃の計画はそのようなものでした。そして、王妃は人々に決心を告げ、持っていたものをすべて支給しました。そうして王妃はできるかぎりすみやかに静かに居室を離れ、当時十五歳の王子やケント伯、サー・ロジャー・モーティマー、その他すべての同行しているイングランド騎士を連れていきました。王妃らはフランスを真っ直ぐ抜け、Vermandoisを、カンブレ領を抜け、エノーのオートルヴァンのサー・ニコラス・オブ・アンブレシコート(Sir Nicolas of Anbrecicourt)の治めるブリジンコートと呼ばれる城に向いました。そして、サー・ニコラスの従者も妻も暖かく品良くイングランド王妃と王子と仲間たちを迎えいれました。そして、王妃らはすべて自由になったことを知ったのでした。
王妃がブリジンコートでサー・ニコラスのもとにいるという知らせはすぐに、ヴァランシエンヌのエノー伯と弟のサー・ジャンに届きました。そして、これを聞いた二人の騎士はどうすべきか話し合いました。まっさきにサー・ジャンは十分な騎士と従者を引き連れてオートルヴァンのブリジンコートへ早馬で駆けました。そしてそこで、サー・ジャンは王妃を見付け、できる限りの名誉と敬意を表しました。悲しみと絶望の淵で神以外に救いのことばが無かった王妃はサー・ジャンに自分の艱難辛苦を語りはじめました。まず、息子を連れてイングランドを発ったこと、弟のフランス王の保護のもとフランスに来たこと、イングランドの友が欲しているので、優勢に戻り、息子を王国へ連れて行くために、弟から武装兵を出してもらおうと考えたこと、そして、弟がこの計画を妨げ、全貴族に王妃への随行を禁じ、国外追放と所領没収で自分を脅したこと、などなど。そうして王妃はサー・ジャンに辛苦のなかを息子を連れて、だれのなんの安心助けもない土地から逃げてきたことを話しました。
人の良いサー・ジャンは王妃の悲しい嘆きを聞き、王妃が涙するのをみて、大いに同情し、次のような言葉で王妃をやさしく励ましたのでした。「マダム、わたしをあなたの騎士と思ってください。いかなるものがあなたを破滅させようとも死ぬまでお側にお仕えしましょう。力の限り、あなたと王子をイングランドの正当な地位に戻るよう、その地のご友人の助けとともに尽くしましょう。そして、わたしと集めた軍隊は、あなたを助けるために命のすべてをかけてましょう」サー・ジャンがこのような高潔で勇気づける言葉を発すのを坐りながら聞いていた王妃は、たいへんな喜びと感謝の気持ちからひざまずこうとしましたが、高貴な騎士はそうはさせず、王妃を起こして、腕の中に寄せて、言いました。「神の恩寵により、イングランド王妃は騎士のまえでひざまずことを考えてはいけません。しかし、ご安心をマダムとお仲間のみなさま、わたしが約束を破ることはないのですから。わたしの兄と義理の姉、あなたのいとこのエノー伯妃に会いに行きましょう。姉はあなたを連れてくるよう頼んでましたから。」これに王妃は同意し、言いました。「サーよ、わたしは全世界のどこよりもあなたに愛と安心を感じます。あなたが語り、申し出てくれてことに、千度お礼します。わたしたちはあなたにどんな迷惑もかけませんが、もし神の励ましと恩寵とあなたによってわたしが望むように元に戻ったら、あなたへ十分に償いましょう」
この言葉とともにサー・ジャンは王妃、王子、ケント伯、そしてその他の騎士の元から立ち去り、デナイン(Denanig)修道院の居室に向った。そして、王妃はブリジンコートに滞在し、アンブレシコート伯サー・ニコラスの客人としてたいへん歓待されました。サー・ニコラスはできるかぎりのことをし、それは王妃にとても喜んでもらうためでした。
朝になると、サー・ジャンはミサを聞き、朝食後、デナインを出て、王妃とその集団がすでに旅の準備をしているブリジンコートに馬で戻りました。王妃らはみな離れ、サー・ジャンは王妃らを暖かく迎えるヴァランシエンヌへの道へ導きました。伯のホールはすでに王妃と随行員のための準備ができていました。しばらく、伯はホラント館で家人とすごしました。王妃は館でとまり、十分にやすみ、楽しみました。そして、エノー伯妃が王妃に会いに来て、知りうる限りの方法で、すべての名誉と敬意を表しました。そして、痛風に苦しみ、困難を伴いながらも、エノー伯ギョームも同じくそうしました。だがしかし、エノー伯は王妃をヴァランシエンヌにいるあいだの三週間、礼遇しもてなしました。
この間ずっと、王妃は旅の準備をし、やるべきことに心を傾けました。そして、サー・ジャンはエノー全域、ボヘミア、ブラバントのほとんどの同盟している騎士や仲間に熱意ある手紙を書きました。そして、サー・ジャンは友情のためにこの企てに一緒に来てくれるよう懇願しました。方々から、好意的なものが来ました。懇願を断るものも多かったのですが。同様に、サー・ジャンは、兄と相談者たちから計画があまりにも大胆で危険で、イングランドのバロンと民衆に不和と憎しみを広げ、イングランド人は概してイングランドの国にまさり、侵略しようとする異邦人に対して非協力的なことからとめられました。そのためにみながサー・ジャンと仲間たちが二度と帰ってこないのではと心配しました。しかし、おわりなき反対にもかかわらず、人のいい騎士は思いとどまりませんでした。なぜならと、かれは言いました、「わたしは一度は死ぬのです、そしてそれは主の手の内にあります。しかし、高貴な女性に王国へ連れ帰すことを約束したので、死ぬまであの人を支えるでしょう。そして、国から無理に出された高貴な女性とともに死ぬでしょう。なぜなら、悩める女性を助けるのが騎士の重大な使命だからです」
第1巻 第8章 了