ここで描かれるジャンヌ像は、オルレアンの戦いでは、確かにちょっとした活躍をしたけれど結局のところは姉殺害のショックによって、内面にイングランド憎しの感情をつくって、その心の声を神の声と信じているという姿で、いってみれば一種のパラノイアとしてのジャンヌです。ですから、ジャンヌがフランス王国を救い、百年戦争を一人で終結させただという神話を信じたい方は見てはいけません。
話しはまずドン・レミ村がイングランド方の傭兵隊によって焼き討ちにあうところから始まります。その争いの最中、ジャンヌは姉に隠れ場所を譲ってもらい助かりますが、身代わりとして姉は刺殺されさらに辱められるという体験をします。この記憶がその後のジャンヌを縛り続けます。
舞台は一転、シノン城に。ジャンヌが王太子シャルルを探し当てるというエピソードが再現されます。この時にラ・イール、アランソン公、ジル・ド・レの人物紹介がなされますが、一番の見所は忠臣面した侍従長トレモイユです。このトレモイユはブルゴーニュ公に仕える弟がいて、兄弟敵味方に分かれていました。が、それが逆に王太子側とブルゴーニュ公の関係修復の一助となっていたのです。その一方で、王太子の権威を傘に借りて トレモイユは私腹を肥やしていたので将軍たちからたいへん睨まれていました。王の会見のシーンには他にもたくさんの貴族たちが登場しますが、そのほとんどがロワール河以南の土豪たちでブルボン公やオーベルニュ伯などなど南仏を代表する人物がいたことでしょう。
さて、ジャンヌの信仰心が認められるとオルレアン攻防戦となります。血みどろな戦場の中に奇抜な武器やら新兵器を登場させています。
オルレアン後は戴冠式、そして無謀なパリ攻め、コンピエーニュでの捕縛となり、後半の異端審問へと移ります。
牢獄シーンでは神の声を聞いたと信じるジャンヌと、神の声はおのれの声だと詰問する影との対話が続きます。この問答が特に素晴らしい。それまでのシーンがひとつひとつ積み重なりながら、ジャンヌの正体が暴かれていき、ついに「見たいものを見ていただけ」という結論が出されます。ここでこの映画はすでに終わっていて、火刑のシーンはエピローグに過ぎなくなっています。
くりかえしになりますが、美しいジャンヌ像をもっている人は見てはいけません。が、ぼくが知っているジャンヌはここにいました。