1998年度 西洋史特殊講義第1回

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要点
『百年戦争時代』への招待

1 百年戦争時代とは何か?
2 百年戦争時代の最初の戦い
3 エドワード3世のクレシー行軍
4 エドワード3世とヘンリー5世
5 今後の予定


1 百年戦争時代とは何か?

 『百年戦争』は、ジャーナリズムにおいて連続して続いた戦争の総称として扱われているため、日本では戦争のみが主題と考えられ、軍事史の視点が強調されている。これは日本において14、15世紀の西欧史を扱う研究者の不足が生んでいる弊害である。

ここでは、『百年戦争』を時代の呼び名と捉え、『百年戦争時代』と呼ぶことにする。それはまた『中世の秋の時代』に通ずる。

2 百年戦争時代の最初の戦い

 百年戦争がいつ始まったのかについてはいまだ議論の対象である。

1340年にフランドルのヘントにおいてイングランド王エドワード3世はフランス王位宣言をしてヴァロワ家のフィリップ5世を否認した。これは一つの契機である。そして、翌年起きたのが、スロイスの海戦であり、百年戦争時代はこの戦いで幕を開けるのである。

1341年にイングランドとフランスの軍隊がスロイスの沖合いでぶつかったが、これは制海権をめぐる戦いだった。戦いの結果はフランス軍の惨敗で、16000〜18000人の命が失われたという。この大勝利によってイングランド軍は自由に海峡を渡ってフランスに遠征することが可能となったのである。やはりスロイスの海戦はすべてのはじまりなのだ。

それでは、当時の海戦を見てみよう。中世の海戦に、アルマダ海戦やトラファルガー海戦をイメージしてはいけない。船を沈めることではなく、船の乗組員をすべて殺すことが中世の海戦の勝利なのだ。これは戦いの形式の違いに由来する。当時は船と船がぶつかりあってお互いが接した部分から相手の船に切り込むという方式で足場の悪い陸上戦にすぎなかった。そこでフランス艦隊は船を鎖でつないで海に浮かぶ陸上をつくってことに望んだ。ところが、この甲板に勢ぞろいしていたフランス兵に雪の降るようだといわせるほどイングランド軍は長弓を射掛け緒戦で勢いを得、そのまま雪崩れ打ってフランス軍を壊走させるのである。沿岸には傍観を決め込んでいたフランドル方がいたが、イングランド有利と知るや参戦し、フランス兵がようやく海岸に落ち延びてきたところを襲ったのである。こうした残虐さもまた中世の一面なのだ。

フロワサール年代記『スロイス海戦』
画像は、『スロイス海戦』

3 エドワード3世のクレシー行軍

 1346年のエドワード3世のクレシーの戦いの目的は祖母がカスティリャ王家から嫁ぐときに用意したポンチュー伯領の奪回だった。では、その遠征はじめになぜカレーやソンム周辺の土地に直接行かずに、コタンタン半島のバルブルールに上陸したのか?こんなところに上陸した場合、セーヌ渡河という最大の問題が圧し掛かるのは必定であり遠征そのものが不可能になるはずである。

英仏の研究者ともこの問題について明確な答えを出さず、海流や風などでお茶を濁しているばかりである。ある研究者はエドワードは常軌を逸していた言い放っている。しかし、エドワード3世にはバルブルールに上陸しなければいけない理由があったはずである。それはなにか?それは騎士道なのだ。

1203年11月5日、ときのイングランド王領地のないやつジョンは、いばりんぼうのフィリップによって大陸から追い出された。そのときの出立の地がバルブルールだったのである。エドワード3世はプランタジネット朝の王としてジョンの無念を晴らすためにそこに上陸したのだと考えるのが、いまのとこもっともらしい理屈である。

4 エドワード3世とヘンリー5世

 クレシーから70年後、ランカスター朝のヘンリー5世もまたアザンクールで大勝利を得たが、かれはその戦場に向かうのに、セーヌ北岸のアルフルールに上陸した。これが合理的判断である。パリに入城し、フランス王のむすめと結婚した直後も浮かれ騒がず、戦場に赴くなど、つねに合理精神をみせるヘンリー5世ではあるが、ホイジンガはそのようなかれに騎士道的側面が強いことを説いたのである。

騎士道的ふるまいをしながら要所でカレーの強制移住政策など権力政治をおこなうエドワード3世と、マキャベリズム的要素のめだちながらも、心を支えるのが十字軍志願の騎士道精神であるヘンリー5世のコントラストはなにを示すのか?

中世の秋の時代は、十字軍、騎士道、キリスト教だけでは説明できなくなっている。これは現実が肥大化したためで権力政治に頼らざる負えなくなっていくのだ。

5 今後の予定

 今年度は、この百年戦争時代を理解するにあたり、なにが問題になっているのかを1420年代のパリという局地的視野で考察する。スロイスの海戦が、バルブルールへの上陸が諸相を語るようにパリの住人の振る舞い、権力者の動向がなにか全体を語ってくれるだろう。

第1回 了

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