宦官の飽くなき出世欲





凌遅処死  先に、悲惨な下級宦官の生活の項目で述べたとおり、多くの下級宦官たちは、つねに上位の宦官の顔色を伺いながら泳ぎ回り、罰を受ける事のみをひたすら怖れました。下級宦官にとっては、このへつらいやご機嫌伺いの技術を磨くことが出世の必要条件となります。
 一定の地位を獲得した高級宦官は、主人に媚態のかぎりを尽くす一方で、部下達にもへつらいと迎合を強要し、心理的平衡を保とうとします。その部下達もさらに下級の部下達に対して迎合を強要するので、かくして宦官集団内部における媚びへつらいの習慣はますます度を超していくこととなります。

 このへつらいピラミッドの最下層にいる下級宦官にとって、後宮という特殊で悲惨な生活から抜け出す唯一の方法は、直属するボスを通して力を身につけるしかありませんでした。つまり、高級宦官になりピラミッドの上の部分に登り詰めること、すなわち統治階級の要員になる以外に、人間らしい生活を送ることができなかったのです。すべてはこの目的のために日夜恥辱に堪え忍び、労苦に挺身するのです。それだけにひとたび上に登ることの出来る機会が訪れれば、それを利用して這い上がろうとする欲望には強烈なものがありました。中級宦官となり、ようやく衣食住と身の安全が保障される地位についても、そこで満足する宦官はほとんどおらず、かえってその日から権力欲と政治的野心をとめどなく発揮し始めます。

 高位に登れば登るほど、彼らの昇級に対する欲望は強くなります。なぜなら階級というものは、一度登り始めたら最後、常に登り続けなければならず、さらに上に行けばいくほど、落ちる危険性も高く、落ちたときの損失も大きくなるのです。宦官の場合、権力から見放されれば、待っているのは見せしめの為の斬首という悲劇でした。史実に残る宦官達の悪行の度合いが常軌を逸しているのは、この様な理由によるものでした。