小松大臣教訓入道事
(こまつのだいじんにゅうどうにきょうくんのこと)
小松殿重盛はこの事を御聞きになって、急いで清盛入道の許へ参上して申し上げる。
「仕返しの仰せなど絶対あってはならぬ事です。重盛の子たちは未だ六位の平殿上人にもかかわらず、基房殿下のお出ましに出会って無礼を致すことこそ馬鹿げております。たとえ、資盛が若者で礼儀を知らなかったとしても、付き添いの侍どもが、おかしいと思うはず。彼らこそ勘当すべきと思います。資盛はまったく恥ではございません。むしろ武士に会ってこの様な事に遭ったらそれは憂うべき事でしょう。上下の身分は定まっており、敵とか言うこと自体論外です。摂政の位にある方は恐れ多くも春日大明神が乗り移られて天皇と供に国を治め、民を育まれますことは最もなことです。今権威に誇って、その恥を報いようとするのはよくありません。これは平家一門の衰微になると思います。さすれば、『徳を以って人に勝る者は繁栄し、力を以って人に勝つ者は亡ぶ』という言葉がございます。このような事からこそ、大事件が発生し、家の煩いとなる事もあります。『老子経』に『天下の難しい事は必ず容易な事依り起きる。天下の大事は必ず細かい所より起きる』と言います。よくよく御慎みなさいませ。人の噂も百日と申します。只この事を外に漏らさないようにするに越した事はございません。」
などと、宥めもうされたので、聞く人は「たいそうな賢臣だ」と思った。
また、侍たちを呼び、
「幼いものを連れてこのような事をしでかす事、もっての外の狼藉であるぞ」
とおっしゃたので、御供していた者達も、皆恐れ入った。
こうして小松殿はお帰りになった。それでも、清盛入道は腹に据え兼ねて、「田舎侍の習いは気の荒々しさであり、上も下もわきまえず、主君より他には恐ろしいものも無い」と思って、状況を知らない難波・妹尾(せのお)に下知なさり
「重盛は鷹揚なので子の恥も親の怒も知らないであれこれと仕返しを制止しよったが、他家の人がこの事件について思うことが恥ずかしい。皆のために資盛の恥を雪げ。基房公の御供の髻を切ってこい」
とおっしゃった。
難波経遠・妹尾兼康の両名は、これは面白い事と思って、内々に仕返しの準備をするのであった。
今回のキーワード:難波経遠・妹尾兼康…この両名は清盛の命実行者として、大抵ペアで行動します。この後もいろいろとやらかします。
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