平家物語という言葉を耳にすると、中学・高校の古典の時間を思い出される方が多いと思います。祇園精舎や敦盛と熊谷、壇の浦合戦といった章段などが教科書には掲載されてあったと思います。しかし、教科書を含めて、現代における平家物語について書かれている書籍のほとんどは、平家物語の数ある諸本の中の一つ、明石殿覚一によってまとめられた「覚一本」を下敷きに書かれております。つまり、平家物語には皆さんがお目にかかる「覚一本」のほかに、さまざまな諸本が存在するという訳です。更に、平家物語はさまざまな受容のされかたがあったため、いろいろなヴァージョンの本が作られました。
それらの本の分類を初めて試みたのが山田孝雄(やまだ・よしお)でした。山田の分類方法は、「灌頂巻(かんじょうのまき)」と呼ばれる、通常の十二巻の後に建礼門院という女性のその後を描いた巻の有無によって分けるというものでした。山田は七十五種類にも及ぶ平家物語の諸本を、灌頂の巻があるものと無いもの、あることはあるが、特殊な形態をしているものの三門に大きく分けて、更にそれぞれを細かく分類し、三門十八類三十四種に細かく分類しました。大正七年のことです。(『國学院雑誌』大正七年四月号)
灌頂巻の有無は重要な事でした。なぜなら、琵琶法師の組織である「当道(とうどう)」にとって、この巻は秘伝中の秘伝とされたからです。この巻を語るには相当の年月を経ねばなりませんでした。
一方で、広本系・略本系という分類があります。平家物語諸本には、関東における源頼朝の旗揚げについて、関東の視点に立って詳細に描いたものとあくまで京都からの視点に基づいてごく簡略にしたものがあり、前者を「広本系」、後者を「略本系」と区別する分類法です。
そして、広本系の多くが灌頂の巻を持たず、事件に対して類話をふんだんに交えて詳細に述べているのに対し、略本系の多くは灌頂巻を持ち、簡略で歯切れ良く、琵琶法師の語りのテキスト、あるいは琵琶法師の座である当道の権威付けの書としての役割を果たしたものが多い事から、琵琶法師の語りに関わるものを「語り本(当道系)」、そうでないものを「読み本(非当道系)」として分類する事があります。(中には両者の特質を持った諸本も存在しますが…)
ここでは、「語り本」系と「読み本」系の分類に基づいて、代表的な諸本の紹介と入手方法を紹介します。
●【語り本系】…琵琶法師の語りに関わった諸本たち
・覚一本…最も有名な琵琶法師の権威書●【読み本系】…様々な視点で事件を詳細に描いた諸本たち
以上の諸本の他にも諸本は数多く存在します。