幸若舞の諸本
公演のための本と読むための本『舞の本』

 録音機材の無い当時の曲舞の詞章については、文字に書かれたものから知ることが出来ますが、その本にかんして、区別をつけねばならぬ点があります。『舞 の本』と正本との区別です。曲舞の詞章が書いてある本の一つには『舞の本』と呼ばれる一群が挙げられます。これは慶長年間から江戸時代前期、様々な版元か ら刊行された絵入りの本で、読み物として享受されてきたものです。もう一方は胡麻点や音曲譜を付した台本として用いられた本です。

●台本一覧

○大頭左兵衛本

 笹野はこの本は同一人による筆であるのに、大頭左兵衛写とも笠屋但馬写とも書いてあるので、恐らくは大頭の祖であろう大頭左兵衛の書いた物を写したもの であるだろうとされ、室町後期のものと推測した。現在は天理図書館所蔵である。

・大頭一本
 笹野によるとこの本は江戸時代前期の大頭の正本らしい。現在所在は不明である。

○平瀬氏本(文禄本)
 現存のうち最も古いものが文禄二年五月から八月までの間に上山与兵衛尉宗久書写の物であり、四十五番を収める。庵点のみで音曲・胡麻節が記されていない ものの、笹野はこれを大頭の正本として認めた。麻原は上山与兵衛尉宗久を大名の側近と想定し、主命によって書いた物ではないか。別名文禄本。

・大江本
 現存する大江の幸若舞に伝わる本で全十五番。笹野は江戸中後期のものとする。

○毛利家本
 毛利伯爵家文庫蔵。毛利輝元・秀就親子が御伽衆の幸坂中太夫こと奈良松善吉、善三郎兄弟が越前の幸若太夫のもとで稽古を命じ、幸若小八郎安信(小八郎家 の祖吉信(呉竹)の次代)ら幸若流の人々から伝授されたものをまとめた物である。奥書には慶長・元和年間のものが多い。三十四曲を収録。麻原は成立段階 を、元和四年(1618)五月の帰国までに授受されたもの(A群)を一次、帰国後兄弟が収集した如滴(如滴は幸若良信の娘婿で安信の指南役)の自署花押が 押してある如滴本と称されるもの(C群)元和四年七月から十月にかけて書写されたもの(B群)を二次、貞享。元禄に成立した歌謡集の三段階を紹介してい る。「文覚」はB群の如滴本に入り寛永元年(1624)八月の日付が入っている。

・内閣文庫本
 幸若流は三家(八郎九郎・弥次郎・小八郎)に分かれており、彼らが輪番で江戸幕府に出仕したときに書き上げたもので、寛永の奥書を持つ。「文覚上人(文 覚)」を含む三十三曲を収録。

・桃井氏本
 幸若流の末裔である桃井直英氏の伝わる本で笹野は幸若八郎九郎の正本だと考えている。四十一番を収録。現在所在は不明である。

・越前本
 幸若弥次郎家の用人である打波氏に伝えられた本で、笹野は何人かの手によって江戸時代中期に成立したものと見る。二十八番収録しているものの、現在所在 は不明である。

・大道寺本
 尾張藩の用人大道寺氏に伝えられた本で、「文覚」を含む三十五番を収録。笹野は、江戸前期のものとする。現在所在は不明であるが写しが蓬左文庫にある。

・東大国文学研究室所蔵本
 大道寺本を校合して編輯した本で大道寺家の家臣の学芸の師であった平出順益が、今古園主人の名で識語を書いている。識語には天保十四年の年号が見える。 十四番収録している。

・藤井氏本
 もとは東大国文学研究室所蔵本と同じ本で、それが分れて一部が藤井乙男という学者の元に入ったのでこういう。十番収録している。現在は天理図書館所蔵で ある。

・藤井氏一本(松村本)
 笹野は、江戸中期のものとする本。藤井本とは所有者が同一であるだけで本には関係はない。二十六番収録している。現在は天理図書館所蔵である。麻原はこ れを松村本と称する。

・京大文科研究室本(杉原本)
 主に寛永の奥書を持つ本。奥書に現れる杉原勘兵衛については未詳。二十六番収録している。麻原はこれを杉原本と称する。

・京大文科研究室一本
 笹野は、江戸中期のものとする。十八番収録している。

・慶応大学斯道文庫蔵伝小八郎正本


・関西大学図書館蔵本

・九州大学図書館旧黒田家本(秋月本)


●『舞の本』系統
 ただいま整理中

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